処方される漢方について考える

Ⅰ.よく目にする処方

001:葛根湯

いろいろな科で風邪に使われる。肩こりでの処方はあまり見ない。
風邪の引き始め、だから寒気のあるときだけで、熱や汗が出る状態では使わない。らしいが…
感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患、肩こり、上半身の神経痛、じんましん。
…らしいが、意外に風邪ならこれみたいに使われているようだ。 産婦人科でいわゆる風邪薬が使いにくい場合とか。
桂枝湯とかではだめなのだろうか。

007:八味地黄丸

泌尿器科。冷えやしびれ。排尿障害、夜間頻尿。
腎炎、糖尿病、陰萎、坐骨神経痛、腰痛、脚気、膀胱カタル、前立腺肥大、高血圧。

016:半夏厚朴湯

ヒステリー球や嘔気に使われている。茯苓の神経系作用での不眠、半夏で咳・嘔吐も。
つわり、せき、神経性胃炎、不安神経症、不眠など。

017:五苓散

代表的な利水剤。口渇があることを目安に使用する。
浮腫、ネフローゼ、二日酔、悪心、めまい、頭痛など。

019:小青竜湯

風邪、花粉症に使われる。細辛が多いので連用はしない。らしいが…
気管支炎・気管支喘息、鼻炎、感冒などの水様の痰・鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙など。
温めて風邪を治す処方の内、鼻水が垂れる場合の処方。
五味子が鼻水を止める。(小青竜湯の酸っぱさは五味子によるらしい。)

023:当帰芍薬散

23、24、25と女性に繁用される漢方が並んでいる。その中で線の細い感じの方に使う。おとなしめ?
貧血、倦怠感、更年期障害、月経不順、不妊症、動悸、慢性腎炎、妊娠中の諸病、半身不随、心臓弁膜症など。
利水と駆瘀血剤の組み合わせがよいのか、耳鼻科でもよくつかわれる。味覚障害、嗅覚障害…

024:加味逍遙散

3つのうち、体質虚弱は23も同じだが、精神不安、いらいら、精神症状の傾向のある方。
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症など。

025:桂枝茯苓丸

3つのうち、体力のある方。
子宮内膜炎、月経不順、月経困難、帯下、更年期障害、冷え症、腹膜炎、打撲傷、痔、睾丸炎など。
構成がうまくできているのか、横綱級の処方と書いてあるものもあった。そんなには見ないけど…

029:麦門冬湯

ACE Inhibitorの空咳に使われることで、よく名前を聞く処方。
痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支喘息など。

031:呉茱萸湯

神経内科などで頭痛に使われる。
習慣性編頭痛、習慣性頭痛、嘔吐、脚気衝心(脚気に伴う心機能不全)など。

041:補中益気湯

体力なく、疲労で点滴でもしようかというときに使われる。不妊治療の男性にも処方される。
夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、全身不随、多汗症。

043:六君子湯

ツムラがリックンというキャラクター押ししていて(陸上自衛隊のとは別)、胃の調子を整える処方として汎用されている。
胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐。

054:抑肝散

肝とはおおまかに気分のことらしく、気を静める、また睡眠改善に使われる。認知症の問題行動の抑制に効果あるらしい。
興奮しやすく、怒りやすい、イライラ、眠れないなど。小児ではおちつきがない、ひきつけ、夜泣き。  

062:防風通聖散

ダイエットを目的に使われている。下剤の配合だが、基礎代謝を上げる薬理作用があるらしい。
皮下脂肪が多く、便秘がちな人で、高血圧の随伴症状、肥満症、むくみ、便秘。

068:芍薬甘草湯

速効性のある漢方として知られる。こむら返りによく効くので、ゴルフに持っていくとか、枕元に置いておくとか。
骨格筋のけいれんだけでなく、平滑筋にも効くので、おなかの差し込みにも有効。
急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛。

100:大建中湯

消化器外科で有用性が認められ、術後のイレウス予防にも用いられる。低用量では下剤。
冷蔵庫病。(冷たいものの食べすぎでお腹が冷えた状態) 温める代表は人参湯(乾姜)。腹痛がある場合は 大建中湯。
腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの。開腹術後の腸管通過障害に伴う腹痛、腹部膨満感。

107:牛車腎気丸

下半身のしびれによく使われている。疲れやすく、冷えやすい。八味地黄丸より痛みが強い。
下肢痛、腰痛、しびれ、かすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ。

114:柴苓湯

小柴胡湯と五苓散の合剤。バイアスピリンとの併用で不妊治療で良く使われる。
ステロイド様の免疫調整作用、血小板凝集能抑制作用。ネフローゼをはじめ抗リン脂質抗体価が高い不育症(習慣流産)に用いる。
もともとは、小柴胡湯を使うような風邪で下痢がある場合に水の調整として五苓散を服用したもの。なので夏風邪で下痢がある場合。
眼科でも処方されることがあるらしい。(ステロイドを使いにくい場合など?)
下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみ。

135:茵蔯蒿湯

肝疾患に使われる。(小児科でも使われる)
黄疸、肝硬変症、ネフローゼ、じんましん、口内炎。

Ⅱ.あまりみないけど 優れものらしい処方

022:消風散

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。こちらは冷やすことができ、夏の皮膚疾患など。
夏場のアトピー性皮膚炎に対する処方として、越婢加朮湯、白虎加人参湯とともにリストされていた。
ほぼ全体の皮疹が赤く熱を帯びるときの標治。
炎症は強く痒みも強い。滲出物も多いが、乾燥・鱗屑もみられる場合。
清熱、去風(止痒)、利水、補血に対応。 風とは痒みのことらしく、それで消風散という処方名か。
分泌物が多く、かゆみの強い慢性の皮膚病(湿疹、蕁麻疹、水虫、あせも、皮膚そう痒症)。

028:越婢加朮湯

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。
夏場のアトピー性皮膚炎に対する処方として、消風散、白虎加人参湯とともにリストされていた。
皮疹が赤く熱を帯びて湿潤傾向のときの標治。(消風散との違いがわかりにくい)
いつかの山口大学の教授の講演でも痛み止めとして優秀とのことだった。
むくみの解消にも効果あるらしいが、血圧の高い場合は、麻黄もあるので使いにくいだろう。
ネフローゼ、脚気、関節リウマチ、夜尿症、湿疹

034:白虎加人参湯

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。夏ばて、暑気あたりを冷やす。
夏場のアトピー性皮膚炎に対する処方として、消風散、越婢加朮湯とともにリストされていた。
皮疹が赤く熱を帯びて乾燥傾向のときの標治。(消風散との違いがわかりにくい)
口渇、ほてり、多尿、発汗、皮膚掻痒感など。マラソンなどでも使う人がいるとのこと。
のどの渇きとほてりのあるもの。

037:半夏白朮天麻湯

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。めまい、頭痛。
六君子湯を元にしており、胃腸虚弱の人に、めまいや頭痛にも効くように生薬を加えたり調整した処方。
めまいにメリスロンを使用する場合、メリスロンはヒスタミン作用なので胃にはよくない。
胃腸が弱い場合は、こちらにするか、併用するとよいかもしれない。
ファイザーのMRさんの話では、リリカの副作用のめまいの対策にも用いられているとのこと。
胃腸虚弱で下肢が冷え、めまい、頭痛などがある者。

063:五積散

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。温めることができ冷房病に。
冷房で体が冷え、汗が出ず、皮下に水分が溜まってだるい状態。
五積とは寒、気、血、水と胃腸虚弱。上半身は火照るが下半身は冷える状態が目標。
胃腸炎、腰痛、神経痛、関節痛、月経痛、頭痛、冷え症、更年期障害、感冒。

079:平胃散

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。繁用されても不思議ないとのこと。
六君子湯を軽くした感じ。六君子湯の方が慢性で、こちらは なんかちょっと胃の調子が悪い時に。
慢性胃カタル、胃アトニー、消化不良、食欲不振。

136:清暑益気湯

ツムラ後援の研修で名前があがっていた。夏ばてのファーストチョイス。
夏ばてによる倦怠、食欲不振、口渇、多汗、熱感などに。
暑気あたり、暑さによる食欲不振・下痢・全身倦怠、夏やせ。

138:桔梗湯

のどの痛いときに口に含ませのどにいきわたるようにして服用すると痛みが改善する。
風邪の引き始めは葛根湯というが、のどから来る風邪には桔梗湯だろう。常備薬にしとくと良いと思う。
のども痛いし、咳も出るなら、麦門冬湯と併用するとよいが、甘草が多くなるので注意が必要。
咽喉がはれて痛む次の諸症:扁桃炎、扁桃周囲炎。

Ⅲ.不眠に使われるかもしれない処方

不眠の漢方というより、不眠は慢性の疲れとか、血行が悪いとか、何かが足らないとか、なんらかの理由で起きてると考えると、
いろんな漢方が不眠の治療に使われると思う。たとえば、瘀血が原因ならば、当帰芍薬散や桂枝茯苓丸が奏功してもよい。
どれでも使えるのかもしれないが、適応に記述があるとか、そのような使い方をされているとかの処方を、ざっとリストしてみた。

106:温経湯

手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:月経不順、月経困難、こしけ、更年期障害、不眠、神経症、湿疹、足腰の冷え、しもやけ

091:竹茹温胆湯

インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、また平熱になっても、気分がさっぱりせず、
せきや痰が多くて安眠が出来ないもの

113:三黄瀉心湯

比較的体力があり、のぼせ気味で、顔面紅潮し、精神不安で、便秘の傾向のあるものの次の諸症:
高血圧の随伴症状(のぼせ、肩こり、耳なり、頭重、不眠、不安)、鼻血、痔出血、便秘、更年期障害、血の道症

015:黄連解毒湯

比較的体力があり、のぼせぎみで顔色赤く、いらいらする傾向のある次の諸症:
鼻出血、高血圧、不眠症、ノイローゼ、胃炎、二日酔、血の道症、めまい、動悸、湿疹・皮膚炎、皮膚 痒症

014:半夏瀉心湯

みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるものの次の諸症:
急・慢性胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症

067:女神散

のぼせとめまいのあるものの次の諸症:産前産後の神経症、月経不順、血の道

103:酸棗仁湯

心身がつかれ弱って眠れないもの

054:抑肝散

虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症

083:抑肝散加陳皮半夏

虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症

024:加味逍遥散

体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症

012:柴胡加竜骨牡蠣湯

比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの次の諸症:
高血圧症、動脈硬化症、慢性腎臓病、神経衰弱症、神経性心悸亢進症、てんかん、ヒステリー、小児夜啼症、陰萎

026:桂枝加竜骨牡蠣湯

下腹直腹筋に緊張のある比較的体力の衰えているものの次の諸症:小児夜尿症、神経衰弱、性的神経衰弱、遺精、陰萎

035:四逆散

比較的体力のあるもので、大柴胡湯証と小柴胡湯証との中間証表わすものの次の諸症:
胆嚢炎、胆石症、胃炎、胃酸過多、胃潰瘍、鼻カタル、気管支炎、神経質、ヒステリー

011:柴胡桂枝乾姜湯

体力が弱く、冷え症、貧血気味で、動悸、息切れがあり、神経過敏のものの次の諸症:更年期障害、血の道症、神経症、不眠症

010:柴胡桂枝湯

発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸症:
感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患、胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胆のう炎・胆石・肝機能障害・膵臓炎などの心下部緊張疼痛

065:帰脾湯

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症

137:加味帰脾湯

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症

008:大柴胡湯

比較的体力のある人で、便秘がちで、上腹部が張って苦しく、耳鳴り、肩こりなど伴うものの次の諸症:
胆石症、胆のう炎、黄疸、肝機能障害、高血圧症、脳溢血、じんましん、胃酸過多症、急性胃腸カタル、
悪心、嘔吐、食欲不振、痔疾、糖尿病、ノイローゼ、不眠症

016:半夏厚朴湯

気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:
不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症

047:釣藤散

慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧の傾向のあるもの (高血圧・動脈硬化の随伴症状の不眠)

Ⅳ.色分け

1は白、2は黒、3は赤、4は青、5は黄色、6は緑、7はオレンジ、8はピンクなら覚えやすいが (なんで?)
なんともわかりにくい色分け。  一覧表のページを表示する
No.1
1は葛根湯の薄い青。
他には21:小半夏加茯苓湯,31:呉茱萸湯,41:補中益気湯,71:四物湯,
81:二陳湯,11:柴胡桂枝乾姜湯も。

No.2
2は防風通聖散の濃い緑。
他には2:葛根湯加川芎辛夷,32:人参湯,12:柴胡加竜骨牡蛎湯,22:消風散,
52:薏苡仁湯,102:当帰湯など。

No.3
3は六君子湯の薄い緑(黄緑)。
他には23:当帰芍薬散,83:抑肝散加陳皮半夏,113:三黄瀉心湯,133:大承気湯など。

No.4
4は柴苓湯の黄色。
他には14:半夏瀉心湯,24:加味逍遙散,34:白虎加人参湯,54:抑肝散など。

No.5
5は桂枝茯苓丸のオレンジ。
他には15:黄連解毒湯,35:四逆散,45:桂枝湯,55:麻杏甘石湯,65:帰脾湯,
75:四君子湯,135:茵蔯蒿湯など。

No.6
6は半夏厚朴湯の肌色。
他には26:桂枝加竜骨牡蛎湯,46:七物降下湯,66:参蘇飲,76:竜胆瀉肝湯,
96:柴朴湯,116:茯苓飲合半夏厚朴湯,126:麻子仁丸,136:清暑益気湯など。

No.7
7は五苓散の濃い茶色。
他には7:八味地黄丸,27:麻黄湯,37:半夏白朮天麻湯,47:釣藤散,57:温清飲,
87:六味丸,107:牛車腎気丸,127:麻黄附子細辛湯,137:加味帰脾湯など。

No.8
8は芍薬甘草湯の赤色。甘草を含むものが多いらしい。
他には8:大柴胡湯,28:越婢加朮湯,48:十全大補湯,78:麻杏薏甘湯,88:二朮湯,
108:人参養栄湯,118:苓姜朮甘湯,138:桔梗湯など。

No.9
9は小柴胡湯のピンク。
他には19:小青竜湯,29:麦門冬湯,39:苓桂朮甘湯,69:茯苓飲,79:平胃散,
99:小建中湯など。

No.9
0は大建中湯の紺色。
他には10:柴胡桂枝湯,30:真武湯,70:香蘇散,110:立効散,120:黄連湯など

構造化メニュー

漢方はメジャーになる基本処方ができて、それを元に個別の状態に合わせて生薬を加えたり引いたりして対応し、
それが多くの症例に有効ならパターンとして認識され繁用されて発展きたのではないかと思う。
基本形を柱としてグループに分けて考えるとその漢方の構成意図がわかるかも。
ツムラのホームページなどを参考にグループ分けを階層メニューに登録してみた。
おいおい内容を追記してみたい。
桂枝剤、人参剤など、メニューのトップ階層をクリックするとそのグループのページを開きます。
また、現代の医学で漢方の特徴を活かして別の適応に汎用されるものもあるらしい。
そんなものを聞けばメモすることにする。

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